ゴッホが生涯に描いた油彩は約900枚、そのうち風景画を中心に70枚ほどが時代順に並べてあり、彼の作風の変遷が大変判りやすく展示されてありました。そして作風だけでなく、ゴッホと云う人間の精神変遷が垣間見ることが出来、大変素晴らしい展覧会だったと思います。
今更新しい発見ではないのですが、私が受けた印象は以下のようです。
(1)Nuenen時代
作風はミレーの影響を強く感じます。ゴッホのイメージからはほど遠いです。それ以前にベルギーで最貧層の炭鉱労働者と共棲し伝道活動を行っており、強い意志と社会の底辺から見上げるような視点が印象的です。また、描かれている建造物の面構成がデッサン的に正しくなく、後の特徴的な作風をこの時点から彷彿させます。
(2)Paris時代
当時は印象派運動の後期で(最後となった第8回印象派展を実際に観ているそうです)、スーラのような点描による新印象派が台頭していました。ここで今後の作画技術を確立したようです。しかしそもそも他人との協調性に欠くゴッホなので、大都市パリでの作風は、どこか我慢したようなもしくは感情が爆発したような、一定していない印象があります。
(3)Alres時代
ゴーギャンとの共同生活で有名なアルル時代で、色彩と作風が一変します。色彩は青と黄色が基調の所謂ゴッホ調になり、作風は印象派の技法は既に方便に成り下がり、点描とは呼べない長い線や輪郭線を大胆に使い、「光を表現する」ことを第一義にする印象派とは一線を画するものになります。南仏の気候と、浮世絵、ゴーギャンの影響でしょうか。
(4)Saint Remy時代
自ら精神療養院に入ったサンレミでは発作に悩みながらも、作風は安定期に見えます。長く引かれた点描は既に光を表現するためではなく自身の精神を表現するためにあり、誰のものでもないゴッホ独自の世界です。
(5)Auvers Sur Oise時代
終焉の地となったオーヴェールの作品は、そう思って観るからかもしれませんが、サンレミ時代のような足掻いた印象が薄いです。色も激しい黄色が少なくなり淡い青や緑が増えてきます。この時37歳なので老成と云うのではなく、精神が摩滅したためではと推察します。
一貫して気付いたのは、風景画と云ってもどこかしらに家や小屋、人がいるケースが多いことです。激しい気性で常に人とぶつかっていたゴッホが、自然を描く際に人間の営みをそこに含めていると云うは、何か興味深く感じました。
月並みな結論ですが、ゴッホの凄さは自分の内面と精神を絵画と云う手段を通してさらけ出したことにあります。今回の展覧会は、一人の人間の精神が如何に変遷し壊れていったかを参観者に印象づけることに成功していたと思います。
写真は、バーゼルの市庁舎の壁。Canon EOS5D MarkIIで撮影。
0 件のコメント:
コメントを投稿